この時期はどこの職場でも真新しいスーツ姿の新入社員の新鮮な雰囲気、明るい声に満ちている。今年はその新入社員の姿が見えない。去年の9月までに内定し た学生2人が、今年1月と3月に相次いで辞退したからだ。わが社の採用事務は4月からスタートする。企業説明会や訪問など、延べ80人余の学生に対応して きた人事担当者は、がっかりである。前年度入社の先輩が歓迎の準備から日常の細かなルールの手ほどきまで、身の回りを世話する伝統の社風も中断になった。
若年者の就職率向上のため、県は雇用対策事業で「県キャリアセンター」を開設した。産官学連携での就職フォーラムや企業説明会などの施策も充実した。コールセンターやIT産業の誘致により、就職先も職種も徐々に増えている。
企業を取り巻く環境も質的に転換してきた。個性に見合った商品・サービスの提供が求められる時代で、量(大量生産・消費・廃棄、標準化)の時代から質 (独自性、地域性、文化性、本質の追求)の時代への転換である。インターネットを活用した亜熱帯農業、リサイクル、芸能などにかかわるユニークさで評価さ れるオンリーワン企業が続々誕生している。
しかし、肝心の学生たちは相変わらず、堅実で安定感の高い公務員や大手企業への志向が強い。だが、市町村合併や三位一体の改革に迫られる自治体、三菱自 動車の車輪脱落事故や工場での大火災の続発など、従来の価値観では通用しない事態も起きている。学生を支える保護者や先生を含めて社会も、就職への意識を 変えなければ若者の失業率はなかなか改善されない。
働くということは一生にかかわる大切なこと。採用時の条件、知名度や規模ではなく、生涯を通して能力や適性を継続して注げる「自分に適した仕事」を探す ことが大事である。ビジネスの世界では競争に勝たねばならない、ナンバーワンを目指さなければ淘汰(とうた)される。せめて職業選択は公務員や大手企業だ けでなく、小粒でもわさびのきいたオンリーワン企業も検討して、大舞台でとりをとる社員になっていただきたい。(
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